雪平鍋

単身生活での家事のあれこれは一種のぬるいサバイバルと捉えると、見晴らしがよくなります。
つまり家事の深さや味わいを追うのはさっさと諦めたほうが良い、しかし「サバイバル」できる程度でなくてはならない、というのがいまのところの結論。
村上春樹をきどってシャツのアイロンがけに上達したいのはやまやまですが、フルタイムの日中仕事のほかに小説を書き、山と溜まったCDや本やHDDの録画を消化し、そのうえ家事万般に通じるのはどだい無理というもの。
かといって、体調を崩さないよう食事を組み立てていくことだけは手が抜けません。ジャンクフードやアルコールでカロリーを満たしていては生き残れない。とはいえ行き当たりばったりに用意をするのはかえって大変なので、いろいろ工夫しながらデザインをトライアル中です。
そのあたりはこれからときどき書いてみたいと思いますが、最近追加した装備品でよかったのは、雪平鍋。
松江市内で包丁や調理用具を商う「末広刃物店」(いいお店ですよ。お勧め。*1)で、18cm径の木の取っ手がついた片手鍋タイプを買いました。
念のため説明しておくと、雪平鍋は「ゆきひらなべ」と読み、日本料理用の調理用具です。底は平らですが側面が垂直ではなく丸みを帯びた緩斜面になっています。打ち出しをした跡が小さな浅い凹凸になって全面をおおっています。
これは本当、日本料理の煮物に最高に適合した鍋ですね。
ほうろうとかステンレス多層鍋とか使っていますが、いや、雪平鍋がこんなに使いやすいなんて知りませんでした。
緩斜面が最大のポイント。
落とし蓋をうまく使うと、煮汁がこの斜面をつたって、ほんとにうまく回ってくれます。鍋の中のものを返すときも、しゃもじがとてもあやつりやすい。側面が垂直だと煮汁がうまく動かなかったりするし、しゃもじを縦に差し込んで力まかせに返したりしないといけなかったりするんですよね。まだやっていませんが、粘度のある煮汁の水気を飛ばして照りを出すタイプの料理(筑前煮とか)を作ってみたくなります。
さて単身生活での料理づくりはサバイバルというお話。
高カロリーなお総菜とか、フライパンで焼くお肉とかはスーパーで調達できますから、さっとつくれて日もちがして冷たくてもおいしい野菜料理をどれだけ確保できるかが重要。その筆頭は酢の物ですが、生いがいのメニューも必要です。野菜をわずかの油で加熱しアクやクセをやわらげてから蛋白質*2といっしょに出汁で煮る。これです。ここでゆきひらの出番です。
今日は水菜をしっとり炒め、ちょっと出てきた青い汁を捨ててから(これ重要)、冷凍しておいたあぶらあげといっしょに「めんつゆ」で(この手抜きがもっとも重要)煮ました。
緩斜面のおかげで多めの水菜も苦労せず炒められましたし、出汁もうまく回って、お味はともかく調理はとても楽でした。こないだは茄子をごま油で焼き付けて鷹の爪と一緒にめんつゆ責め。あと、出汁を煮立たせといてオクラをものの十秒くらい煮、火を切って、そのまま蓋をして冷ましたもの。まあこういった品をジップロックのコンテナに移して冷蔵庫に入れておくわけです。ぐったりと目が覚める夏の朝は、お肉の熱くてジューシーなのより、野菜の冷たくジューシーな方が数等おいしいです。朝ごはんが終わった頃には身体が軽くなってます。新装備品のおかげでちょっと面倒でも精出して作る気にもなろうというもの。
えー、長々書いてきましたが、飛の小説の食事場面を気に入ってくださる方がおられるようなんで、ちょっとサービスしてみました。かつきさん参考になりますか。
しつこいようですが、強調しておきますけれども、飛はものの味が分かんないんで念のため(めんつゆでぜんぜん平気なあたりとか)。あと料理もヘタですよ。ほんとうに。
それと鍋を買うときは、肉厚なもののほうがよいでしょう。飛の買ったのは2,500円くらい。高いものではないです。

*1:ここはヤスキハガネの包丁を多数そろえていて、これはかなり高価な本職むけの品々です。ヤスキは島根県安来市(やすぎしとよみます)のことでしょう。ここには日立金属の工場がずっと昔からあって、それはもちろん奥出雲の「たたら」の存在と無縁ではありません。これは余談。

*2:あぶらあげ、おとうふ、ちりめんじゃこ、いか、貝類