野田昌宏氏死去

「銀河乞食軍団」の第一部(まるまる文庫一冊分)がSFマガジン1979年の増刊号*1に一挙掲載されたときの衝撃、読みながら「うは、うははは」と身体がしぜんに笑い出してしまうあの読み味の快さは、忘れられません。その読み味=ペンの熱量を支える蓄積の厚みは想像を絶するものでした。
おなじくSFMにタイトルを変えながら長年掲載されていた、エッセイのいくつかも記憶しています。アメリカへ赴かれた野田氏がドーナツのバリエーションを語ったところ(まだミスタードーナツが日本に上陸する前だったと思うのですが)とか、「雨降りお月」が大好きで男声四重唱に編曲したものを聞きたいと綴られたところとかが、なぜかいつまでも心に残っています。
多くの人が書かれているとおり、野田氏がなにかについて文章を書くと、その対象物を「読みたい」「観たい」「聴きたい」「読み食いしたい」「その世界で暮らしたい」と、非常に強く心を揺さぶられるのでしたが、それは、氏の大きな大きな包容力に勝るとも劣らない「趣味と見識の高さ」に由来するでしょう。B級とさげすまれたスペースオペラをあれだけの自信と確信を持って推奨する、その裏づけは、自分の美意識以外にはないはずだからです。
人生に屈託や悲しみがないはずはありません。
でも宇宙軍大元帥が私たちに見せてくださったのは、いつも、SFを楽しみ、仕事を楽しみ、遊びを楽しみ、交友を、人生を楽しまれる姿(と、加藤直之氏が抽象化したあの眉毛のアイコン)でした。
第一世代の仕事をみるたびに、あの健啖ぶり(と出力の豊かさ)にあこがれ、そして途方に暮れてしまうのです。

*1:麦わら帽にお下げ髪の少女をあしらった加藤直之氏のイラストは、これもやはり文庫第一巻の表紙とほぼ同じ構図だったように記憶しています。