調髪

行きつけの理髪店に行って髪を切ってもらいました。顔なじみのおじさんでしたが、切ってもらっているあいだ、「今日はちょっとハサミの切れ味がいまいちなのかな」とぼんやりかんじていました。そう感じたのは、ハサミのせいかもしれないし、ろくに手入れもしていない飛の髪の毛のせいかもしれない*1のですが、そこから思考が横滑りし、髪を切ってもらっているだけでハサミの切れ味を感じ取るしくみというのはいったいどうなってんだろうなあ、と考えていました。
毛髪自体には神経がないのですから(そして目を閉じていたものですから)、当方としては、頭髪にかかったさまざまな力が伝わる頭皮、それと髪を切る音をつかまえる耳、あたりが、まあ主要な情報源でしょう。髪の毛の束を截断していく速度(音の変化と長さで把握)がふだんと違うな、とかすこし髪が引っ張られる感じがするな、どうもこれはいつもほどスパッと切れていないんじゃないかな、なんてことを頭皮の感覚と音の感覚から判断しているんでしょうね。(武芸の達人ならおじさんの息遣いや発汗の具合までピックアップするかもしれませんな。)
しかし生まれてこの方ハサミを使ったことがないとしたら、上記のような推測をすることが出来たでしょうか。
ハサミというものが手の中でどうふるまい、截断の対象物とどう作用するか(截断点が移動するにつれてどのように抵抗や音が変化していくか)を知っていなければ判断できなかったのではないか、と思います。
たぶん飛は髪を切られてわずかな違和感を感じたとき、頭の中で「ハサミでものを切る」というアプリケーションを起動していたのでしょう。そしてそのアプリが保存していた「ハサミの切れ味がいいときはこんなふうになるはずだ」というリプレイ画面(画面?)と、じっさいにじぶんの背後で展開されている状態とを突き合わせて、その差から「うーん、今日はちょっとハサミの切れ味がいまいちなのかな」と感じていたのだと思います。
この思考、じつは、もうすこし先まで進んだんですが、まあそれはまたいつか。

*1:シャンプーでがしがし洗って、そのまま放置(笑)。