神魂別冊「飛浩隆作品集1〜3」

2000年〜2002年にかけて、岡田忠宏氏の編集で刊行されたファン出版物です。
1992年の「デュオ」以降、新作に難航してどうにも身動きがつかなかった時期がありました。
そのころの飛は完全な中折れ状態で、執筆もなかば放棄、SFマガジンも買わず本も読まずで、ごろごろといった状態。6年くらい本業がすごくきつかったしね。そんなとき参加した、当地のローカルSFイベント「雲魂」で岡田氏が飛に持ちかけたのです。SFマガジンに載った飛の作品をまとめた作品集をだしたい、と。

もうね、ここだけの話、ちょっと「ズン」とくるものがありましたですよ。寂しいですよ。未練がましく店ざらしにしていた過去の作品から、いよいよ値札をはずすときが来たんだなあ、てなもんです。ああ、これでセミプロ作家としてのキャリアも完結するんだなあって。冊子の形にまとまって、リボンをかけられて、それで終わりかなあって。
もちろんね、岡田氏にそんな意図は全然ないです。こんなふうに飛がかんじた、なんて話も、いままでいちどもしていません。(びっくりしたら、ごめんね。)
でも一方で、それもいいかもね、と認める気持ちがあるわけですよ。停滞が何年も続いていたしね。SFマガジンに載った作品の評価もそんなに聞こえてこなかったしね。(いまみたいにウェブに感想があがってくるのは、作者には最高ですよ! 酷評でもね、うれしいね。読んだうえに、わざわざけなすほどエネルギーを消費してくれる人には最敬礼。これ、想像つかないかな? この件はまた書きましょう。)読むべき人にはもう読まれたんだろう、もういいかな、と思うわけです。ちょっと自己陶酔を入れたりしてね。逃避ですが。

それでね、SFMの編集部に手紙を書くわけです。載せてもらった作品を転載するわけですし。するとSZ氏から電話が来るのですよ。用件のあと、最後にこう言われたのです。「新作をお待ちしていますから。」
うーん・・・(やましい! にげたい!)
まあそれですぐに書けるわけじゃないんだけどね。
でもね。
でも、あの一言がなかったら、「グラン・ヴァカンス」の前に座り直すことはなかったな。
ほんとですよ?
これも今回初めて書いたことです。(SZ氏にも言っていません。)

んでね「作品集1」(300部)ができあがると、やっぱりうれしいんですよ、これが。
それをまた岡田くんが(以下「くん」呼ばわり)せっせと行商するわけだ。あちこちのSFイベントに出かけたり、コミケに店を張ったりしてね。なにせ売らないと部屋がせまくてかなわないからね(笑)*1そうすると、やれ星敬さんや三村美衣さんが買って行かれたとか、やれ「いまどうしているんですか」と聞かれたとか、飛の耳に入るんです。
やはりね、ちょっとほのぼのしますた。(笑)
そのあたりからかな、こっち方面で社会復帰の意欲が出てきたのはね。
「不在の夏」という仮題で書いていた作品のタイトルを「微在汀線」に変え、そのベータ版をとにかく岡田くんに読ませよう、と念じて、それで「グラン・ヴァカンス」が書きあがったのです。早川書房に送ったのと全く同じものを、同時に岡田くんのところに送ったよ。約束だったもんな。
で、2002年秋に本が出て、その暮れにようやく作品集は完売しましたとさ。

『グラン・ヴァカンス』の「ノート(後書き)」でちょっとふれたことのいきさつは、だいたいこんな具合。
あともうちょっと書くことがあるんですが、それはこんどの文庫の解説者のお名前を発表するときにしましょう。(もうすぐです)

こんど出る『象られた力』は、もちろん、この「作品集」をベースに制作されています。
値札を付けなおして、本屋さんの棚に並ぶのです。
えー。それできょうのまとめ。
あのね、『象られた力』という本は、飛にとってそれくらい大切なものなんだ。
こっぱずかしいですが(柄じゃないよね)、それだけは書いておく必要があると思って、あえて。

いやあ、ほんと柄じゃないね。ここまで読んでくれた人、おつかれさまでした。

*1:売れ行きは悪かったね。第2巻からは200部ずつになった。