星雲賞受賞者座談会(長いよ)

(むむ、いま7月24日早朝なのですが、ほんとに記憶があいまいになってきました。急いで書かねば。以後メモ的になるかもしれませぬ。事実誤認があった場合は、ご教示ください。)
 小説系は飛、大森望氏、山岸真氏。ノンフィクション部門前田建設の野本氏、自由部門ヴェネツィアビエンナーレ森川氏。司会は髭が生えた早川書房塩澤快浩氏。飛も大森氏も初受賞、山岸氏も長篇部門は初。『宇宙消失』と『順列都市』は同じ年度であったせいもあってか受賞を逸しているのです。
 国内長篇部門の笹本氏を欠いているのがなんとも痛いですが、まあスペースシャトル打ち上げの取材のためということであれば、氏のコメントにもあったように、男の本懐というべきかも。というわけでARIELの話は出ませんでした。
 というわけでまず飛に話が振られ、17年前*1の作品で受賞したことへの感想を求められました。これは授賞式でのあいさつのとおりお答え。同じく候補になっていた「ラギッド・ガール」がどうやら今回最下位であり、票が分散しなかったことが勝因でしょう。ここで大森、山岸、塩澤三氏とも「ラギッド・ガール」の方を高く評価しておられたことが判明。あたりまえのことですが作者自身も「ラギッド・ガール」の方が数段優れた作品だと思っています。そのへんどうよ、との質問には「17年後に『ラギッド・ガール』でまた受賞したい。」と返答。
 「象られた力」については、「読み返してみると、どうも小説の態をなしていない。どうもあれは小説内部で何が起こっているかをかいたもののような気がする」「旧版ではアオムラ錦は確信的テロリストであったが、新版では無自覚なただの百合洋おたくとしている。エンタテインメントの組み立てとしては前者が圧倒的に優秀だけれども、あえてこう変えた理由は……」などとお話し。
 『グラン・ヴァカンス』と『順列都市』などとの比較話が出て、閉口。10年も前の作品がいまもなお仮想現実ものの最高峰として君臨しているのは凄いことで、あんな人間離れした人の作品と比べてもらっては迷惑です。飛の作品にも良いところがたくさんあるんだから、SF設定の部分はさらりと流して、どうかそっちを読んでくださいよ(泣)、というわけで

以後、イーガン、チャンとの比較を禁ず。(飛浩隆

 案の定、自作についての話がでましたが「『空の園丁』は、公約どおり『制服女子高校生の超能力空中バトルを本格SFとして描く』というイーガンもレムもなしえないことに挑戦しているので、遅れます」と言い逃れ。
 海外長篇部門の山岸氏は、上にも書いたように、遂に『ディアスポラ』刊行の告知!
 開口一番、

こんどのはむずかしいです。

(笑)。
山岸氏によれば、『タフの方舟』下巻の帯に、「イーガン、チャンが分からなくても、この作品は分かります」てな文があったけれども、『ディアスポラ』には「この作品が分からなくても他のイーガンは分かります」と書きたいくらい、だそう。ちなみに授賞式前に地下で伺ったところでは、訳文チェックを何人もの方にお願いされているとのこと(『万物理論』以上に!)。
しかし『ディアスポラ』は90年代中篇の最高峰「ワンの絨毯」を組み込んだ長篇ですよね(じつは恥ずかしながら未読)。遠未来と宇宙! 読み手のSF力を極限までためされることになりそう。しかもまた9月という絶妙な時期に刊行。各賞総なめは必至かもしれませんが、そのためには京フェスで志村解釈が示されることが必要ではないかと。企画を切望(行けないと思いますけど)。
大森氏はまず自らの今回の投票行動を説明。これまではゲストなので投票は控えていたけれども、今回はプロも一般参加扱いなので胸を張って投票。氏は今回なんと!3部門でノミネートされていますが、長篇部門はイーガンに勝てないとわかっていたので『万物理論』へ(ohmorinozomi氏よりコメント欄で飛の記憶違いの指摘がありました。失礼しました)。ノンフィクションでは「ライトノベル☆めった斬り!」も候補になったけどこれはまあだめだろうからSFファンとしての操を立てて『SF雑誌の歴史』に。そして海外短編では受賞を期待をこめて「最後のウィネベーゴ」に投票。ところがスタージョンという電話に思わず「それ違うよ!」(笑)。
近況はとにかく仕事が詰まっていて目先の締め切りを片づけるのにせいいっぱい、なかなか本が進まなくて申し訳ないと珍しく弱気な口ぶり。「現代SF1500冊回天編」の10月刊行めざしてがんばれ! と人のことはどうとでもいえる私。ちなみに大森氏にもらったシールは「1500冊」の書影かと思いきや「現代5F1S00冊」(よく読まないとオチは分かりません)。著者名も「犬森壁」になってました。まあこういうことをしているヒマがあるなら大丈夫でしょう。
今回の座談会でいちばん注目を浴びていたのは、「おたく」展の森川氏ではないでしょうか。展示会を実現に持っていくまでの腕力や展示品制作の裏話がむちゃくちゃ面白い。田舎住まいの飛は見ていないのですが、いや、これはほんと見てみたかったなあ!

  • 万博が示した現実の「未来」→SF小説→SFアニメ→萌えアニメという変遷。
  • 全体予算は3,000万円で「使いであるなあ」と一瞬思ったけど、輸送や保険が高額なため展示じたいにかけられるお金は700万円くらい。
  • アクリル板がじつは非常に高いものでいくら交渉しても安くならない。そこで板メーカーに直接かけあった。
  • びっしり並べたフィギュアは海洋堂から提供してもらったが、だれが組み立てるかという話になった。そこで自分が講師をしている学校へ行き、たのし〜い仕事があるよと生徒に甘言を弄して作業をさせた。はじめは楽しそうにしていたが、みんなだんだん無表情に。

などなどまだたくさんありましたがもう忘れました。森川氏はレガートな口調でいくらでも話をする方で大変面白い。
前田建設の野本氏。

  • ファンタジー営業部の仕事はサービス残業でやっている。
  • 公共工事の退潮でいまや巨大プロジェクトはフィクションの中にしかない。
  • 前田建設はほんらい橋とかが得意なので、第二弾の「999発車用の橋梁」は社内の受けも良かった。
  • 本が出て評判になって社内で認知されてきた。
  • 第六大陸」はほんとにもう凄く大好きな作品で、月でコンクリ打つのはこうすればいいのか!とかたいへん勉強になった。

などなど。野本氏、じつはプリースト「奇術師」まで読んでいる人だと判明したのは、翌日の「ヘキサゴン」ですが、これはまた、別の話。
ギャラリーはやや少なめで(会場ガラガラともいう)淋し目でしたが、裏番組に負けたのかな。来られなかった方のために大サービスで長篇レポートしてみました。へとへと。

*1:17年といえば、おぎゃあと生まれたロシアの赤ん坊が育ってウィンブルドンを制し、つけ乳首で一世を風靡するくらいの年月です。