『シャングリ・ラ』(池上永一)

シャングリ・ラ
SFが読みたい!2006』の作者インタビューを読んで笑い転げ、すっげえうらやましくなり(だってたのしそうなんだもん)読みました。
白状すると、発売直後に第1章だけ読んで、既視感ある道具立てとデフォルメの効いた文体に「うーん?」と思っていったん休憩していたのです。
ところが腰をすえて読み出すと、もう1600枚があっという間。とくに怒濤の後半部。
いやもうほんとうに凄い。お休みしていた自分の見る目のなさにがっかりしました。
お行儀の良い完成度をかなぐり捨てて繰り出される「瞬間最大風速」の畳み掛けに圧倒されます。ほんらい飛はこの手の書き方は苦手な方(途中で「もういいや」となる)なのですが、思ったほど胸焼けしません。とくに最後の3〜4章は本を置くことができないほどのテンションでぐーっと引っぱられつづけです。広げきった大ぶろしきをどかんどかんと爆音立てながら畳む手つきの痛快なこと! そのひとつひとつに膝を叩いて爆笑また爆笑で、身体がぽかぽかしてきましたよ。「半年も考えた」というだけあって「ミーコが元に戻る」シーンの決め技にはひっくり返り、笑い、そして涙しました。終幕に満ちわたりたなびく幸福感の美しさにもうっとり。
インタビューで作者が“ちらばった1万個のジグソーパズルのピースから無理やり絵を出した”と言っていますが、これは本当でしょう。もちろんメインのネタはばっちり仕込んであるのでしょうが、それだけではテーマ主導のすかすかな絵しかでてこなかったと思います。作者が「この先どうやったら進める?」という場所にじぶんを追い込みぎゅうぎゅういわせると、あるときどかっと突破できることがあります。そうやって書かれたページには本当の力が籠もります。本書の読者は、作者がそうやってつぎつぎ突破し開いた道をぐんぐん歩く、なんともいえない快感をぞんぶんに味わうでしょう。