31日(その5)

異様にフレンドリーなブリンとバイバイして、パネル「ニューウェーヴ/スペキュラティヴ・フィクション」へ。
このパネルは日本SF作家クラブの主催企画ですが、回顧というよりはむしろ未来志向の企画でありました。
というのも現在、日本のニューウェーヴ作品が海外に紹介され、注目をあびつつあるからです。
企画当日に紹介されたのは、日本の小出版社「黒田藩プレス」がこのほど刊行した「Speculative Japan」。内容はリンクさきを見ていただくとして、本書にはこの日のパネラである山野浩一氏の「鳥はいまどこを飛ぶか」が収録されており、それがまさにLocus誌最新号のコラムでも取り上げられているのです。そして、この本の編者のおひとりが、そう、つぎなるパネラのグラニア・デイヴィスさん。「Speculative Japan」は続刊が予定されており、そこには荒巻義雄氏の「Soft Clock(柔らかい時計)」が収録決定。
さらにさらに! 最後のパネラ、川又千秋氏のSF大賞受賞作『幻詩狩り』がミネソタ大学出版会から全訳で出版される運びに!
というわけでいまようやく日本のニューウェーヴSFの果実が英語でも読めるようになってきたその現状を視野に入れつつはじまったこのパネルは、

  • ニューウェーヴ勃興期の英米SF界のようすをグラニアさんが語り、
  • 日本への移入の状況を山野氏が語り、
  • 山野氏の論文「日本SFの原点と指向」に対抗して荒巻氏が投入した巨大兵器「術の小説論」の効用が語られ、
  • 川又千秋氏が「明日はどっちだ!」を経てどのような最終結論に至ったか(「SF入門」を読もう)、やSFとはシュールレアリズムの発現形態のひとつだ、という見解が述べられていきます。

聴衆には、巽孝之氏、ジーン・ヴァン・トロイヤー氏、グラニアさんの夫君、米国の編集者スコット・エーデルマン氏、柳下毅一郎氏、東京創元の薙刀二段の編集F氏、森下一仁氏、野阿梓氏と、どっちがパネラかまるで分からない特濃環境。
森下氏の質問に答えて山野氏が明かした、伊藤典夫山野浩一+森優の企みであるとか、野阿氏の質問を契機にグラニアさんが語るディックの人となり、そしてディックと日本が未来で交差すると言うイメージ、山野氏が会場の質問に応じて「日本SFはもっと僕を主流文学との接点として利用すべきだった」という発言、などなど、などなど。
なんにせよ、飛が一番驚いたのは、荒巻氏と山野氏のヴァイタルさです。とくに荒巻氏は自作をまだまだもっともっと多くの読者に届けようとしている。読ませたくってしょうがない。氏のプロ根性に身の引き締まる思いでした。
パネルの模様は、いずれどこかで何らかの形でまとめられることになるでしょう。
出演者のあいだでは終了後にも、いろいろアイディアが交わされています。 
日本のニューウェーヴがいずれまったく新しい形で〈再発見〉される、そんな可能性を提示したパネルだったでしょう。それがワールドコンに埋め込まれていた意味に十年後ぐらいに皆が気づく、という展開を想像しました。企画者の戦略性に敬意を表します。
パネルが終わって外へ出ると、山野氏の著作をめぐって大争奪戦が起こっていたり、『日本SF論争史』(パネラ三人の論文が収録されています。)がなぜか一冊2,000円で売られていたり。
森下一仁氏からはこんなチラシをいただきました。アルカンを弾くなんて凄いぜ。