「遺跡の声」(堀晃)

ジャンル小説のいいところは、愛の強い読者と編集者を持っていることでしょう。身贔屓かも知れませんがSFは特にそんな傾向があるのではないかな。価値のある作品は強固に記憶され、出版社を変えて、いつか必ずカタログに甦ります。東京創元社は今年に入ってから文庫で日本SFの名作を発掘し送り出しつづけていますが、編集者の、ジャンルと作家に対する愛と敬意を感じずにはいられません。
本書に収められている堀晃氏のトリニティ・シリーズは、飛がSFマガジンを買いはじめたころ同誌にしばしば掲載されていました。端正な筆致が加藤直之氏の硬質なイラストレーションと相まって、静謐な廃墟世界を描き出していました。「何か大きなものが終わった後、人のいない風景」を描くのにSFほどふさわしいジャンルはないでしょう。本書のカバーも当然のごとく加藤氏によるもの。氏のイラストの考証は『バビロニア・ウェーブ』でその一端が明らかにされていたのが、つよく印象に残っています。