ドレスデン『タンホイザー』の演出

……は、ペーター・コンヴィチュニー。過激な読み換え演出で有名なオペラ演出家です。
今回の『タンホイザー』はプレミエが90年代ということもあって、彼にしては穏当なものだった模様。
基本的には本作にもともと内在するカトリシズムへの嫌悪ないし反感を、皮肉っぽく強調したもの。(騎士たちがルンラルンラと踊ったりとか。)
とはいえ『タンホイザー』が含む要素はそれですっぱり割りきれるようなものではないため、ぱっと見にはあちこちに盛り込まれた趣向が衝突しあっているようでした。
第一幕のヴェヌスブルグでの光景(タンホイザーの人形(複数)がひどい目に遭う)には「?」な感想を抱いているひとが多い模様。バラバラになった人形の手足や胴を抱えて、うっとりと横たわる女たち。タンホイザーが赤子のように抱えた自分の小さな似姿の頭を撫でると首がぽろりともげる一瞬。飛には、あれこそがヴェヌスブルグの提供する禁断の快楽と見えました。おそらくそのとおりの行為が(人形ではなく)タンホイザーの生身の身体やヴェヌスが産んだ彼の子にふるわれたのだ――と。だからこそあれほどまでにヴェヌスは忌み嫌われているのです。
しかし「唄歌いの」騎士タンホイザーは、愛の女神ヴェヌスと清純な乙女エリーザベトの双方から命を捧げられるほど愛されちゃうわけですが、これはやはりワーグナーの俺様妄想爆裂、ということなのでしょうね。『紅の豚』もこれに比べればかわいいものです。
東京文化会館は筒状の空間がオペラハウスみたいで、4階の席にまで歌手の声もオーケストラの音もばっちりとどいていました。というか空間が飽和するほどの音響。ニールント、ヘルリツィウスは期待通り。ヴォルフラムは、この演出であればやはりベーアで聴きたかったところ。とはいえ歌手を云々できるほどオペラの実演を聴いているわけではないですし。ギャンビルも、けっこう良かったと思います。