「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」
親子三人で見てきました。
ホラー映画のフォーミュラにのっとりながら、それをことごとく、とぼけたおかしみに転化していく手さばきのあざやかさにほれぼれします。むごたらしい流血がジューシーでオーガニックな饗宴になっちゃうんですから。
あと怪物が現れるときのクリシェ(コーヒーカップがカチカチと鳴る)を茶化したり、司祭の意外な愛読雑誌とか小さなジョークもとても楽しかった。
観客はのんきに愉しんでいればいいのですが、このスクリプト(あらすじ)を実際のコンテに割っていった人の頭の中はどうなっているのかなあ……。クレイアニメーションですから、その場のノリでアドリブが出たりすることはありません。すべての画面が事前に綿密に設計されているはずです。その画面を実現するのに、どのようなセットを組み、どう照明を当て、どの位置から手を入れて人形を動かすのか。場面ごとの色彩設計、使用するレンズ。アニメーターが何人必要で、だれをどこへ張りつけていくのか。
それだけ厳密なファンデの上に築かれているにもかかわらず、この作品には、なんともいえず気持ちのいいゆるさがただよっています。コケティッシュではあるけれどぜんぜんエロティックでないことに、その一因があるでしょう。メカニカルなものへのフェティシズムという点で似通っていながら、宮崎アニメの絵づらを時おり横切る、なんともいえない気持ち悪さ*1と好対照です。
飛にとってのベストが第二作(「ペンギンに気をつけろ」)であることには変わりありません(あまり長い尺に耐える素材ではないでしょう)が、幼児から大人まで、一般客からマニアな人まで広くお勧めできる、すばらしいできばえ。
*1:貶しているわけではありません。念のため。