『ラギッド・ガール』その12

「魔述師」について(その3)
で、なんでチェコっぽい舞台にしたかというと、この国が紀元前からの長い「人形劇」の歴史をもっているからです*1。その点で、モーリス・コンヒスを移入する素地がある、と判断しました。
ハプスブルク家の傘下に長く組み込まれていたこの国で、チェコ語を使えるのは民謡か人形劇の中だけだったと言います。地方を巡業する人形劇団は、オーストリアの圧制を批判し、民族意識を高めるのに一役買ったそうな。やがて19世紀末の民族復興運動では知識人が人形劇が重視、家庭用の人形劇舞台なんてものが普及し、人形劇専門誌が創刊されたとか。
この伝統があったからこそ、そう、カレル・ゼマン、イジートルンカヤン・シュヴァンクマイエルなどそうそうたる人形アニメーション作家を輩出しているのでしょう。もちろん区界〈ズナームカ〉はチェコそのものではありませんが、その歴史感覚は天文時計*2に反映させています。これらの人形は、やがて同郷のカレル・チャペックの想像力を経由しつつ、その未来において、操られながらも意思と感情を持つ区界AIになるのですから。
マチェイ・コペツキは、18世紀のチェコ人形遣いの名前から採りました。
と、いうわけで12回にわたってつづいたこの番宣シリーズもおわり。
長らくお付き合いくださり、ありがとうございました。

*1:Laterna Magikaは、プラハにある映像、音楽、ダンスを組み合わせたパフォーマンスの劇場の名でもあります。

*2:あれもプラハに実在します。